友人の仏前にて

 前会社の同僚(享年57歳)の訃報を昨年年末に聞いた。遅まきながら今年になって初盆を迎えるにあたり前会社の先輩と一緒にお線香をあげるため自宅に伺った。
 死因は肺がんだった。昨年の8月頃咳など体の変調を覚えて診察に行くと、ステージ4でもう手術も出来ない状態だと医師から直接告知されたと奥様から聞いた。

 余命数ヶ月と聞いた時の彼の無念さを痛く感じる。それから彼は身辺整理にあてたらしい。痛み緩和のみの治療を家で送ったが死の直前に病院に戻った。家族への負担を最小限に留めたらしい。(警察による検死など)

 彼は九州・大分県の出身で酒がめっぽう強く、そしてプロが顔負けする程に歌が上手かった。特に昭和枯れすすき、無法松の一生など聴き手に少なからず感動を与えていたが、その歌を奥様は聞いたことがないと言われるのも彼らしい話である。

 肺がんで亡くなったので、きっとヘビースモーカーだと思っていたら、ここ数年は日に5本程度の日常であったらしい。肺がんになるのなら、もっとタバコを吸えばよかったと漏らしたらしい。

 酒について7年前から断酒して一滴も口にしなかったそうで、それは2011年3月の東北大震災・福島原発大事故からで、その事故をテレビで見てからだそうだ。
 彼は原発の設計・工事に一切関わったことはない。しかし公共物の設計に携わる人間として、設計者の責任を痛感したのだろう。あれほど好きだった酒をきっぱりと止めた気持ちが少しは解る気がする。

 最近テレビ・新聞で報道された自民亭とやら赤坂亭とやらで、歴史上の大惨事が予想される気象庁の発表を知ってか、知らずか堂々と酒宴を行った先生方、お酒や肴は国民の税金ですよ。それをSNSで流す神経はもっと理解がしがたい。

 ある一人の技術者の責任感から断酒した友は草葉の陰できっと笑っているし、嘆いている。