丸山城志郎 勝つ

 昨日の柔道世界選手権で丸山城志郎が東京オリンピック候補筆頭の阿部一二三を破った。もし阿部が勝ったらオリンピック候補に決定するとも言われていた。
 丸山にとって後がないと言わしめた理由がそこにあった。
 何故彗星の如く現われた丸山なのか?実際には丸山は直近阿部に2連勝している。
 そこにはテレビ界のPRで兄・妹のオリンピック金メダル獲得の美談の方が視聴率を上げる効果が大となる事情が働いているのかも知れない。以下のネットの批評を読んでほしい。


 グランドスラム 丸山城士郎、阿部一二三を破る。 [スポーツ理論・スポーツ批評]
柔道グランドスラム大坂 初日、テレビ東京の番組づくりは、初めから「阿部一二三、阿部詩 兄妹世界チャンピオンが、今大会も優勝して来年の世界選手権代表も決定、そして東京オリンピック代表一直線」という台本にのっかって、二人以外の選手の試合をほとんど流さずに、無駄に二人の様子を追いかけた映像をダラダラ流すという最悪の内容。

柔道は、特に日本の柔道のトップ選手の層はおそろしく厚く、世界選手権王者だろうとオリンピック金メダリストだろうと、国内のライバルが多数出場する試合で勝つのは至難の業。民放が、「メダリストが必ず勝つ」という筋立てて番組作りをしてはズッコケる、というのを過去も繰り返しているのに、反省をする気配がカケラもないのはどうしたことか。

と、私が腹を立てるのには、個人的思い入れもある。阿部一二三と同階級のライバル、丸山城士郎は、私の三男の中学、高校の同級生。単純な同級生ではなく、高校の1~2年のときは、城士郎と、一歳上の兄剛毅、ふたりの朝練パートナーとして、部活時だけでなく、朝も一緒に練習した間柄。
 丸山兄弟は、バルセロナ五輪代表の父を持ち、金メダルを取り損ねた父の夢を果たす、というドラマを背負って、小学生中学生から高校大学ずっと兄弟そろって日本一で居続けた超柔道エリート。九州から親子で出てきて神奈川桐蔭学園中学に入学したが、その環境が「甘い」といって、中学三年で県内の強豪中学、相原中学校に転向していってしまった。それなのになぜか高校では桐蔭学園に戻ってきた。(ここで、今年の73世界選手権王者、アンチャンリンと同学年・同階級となり、後に二人とも世界ジュニア王者になる二人が、県大会への出場をかけて校内予選を戦う、という、異常にハイレベルな切磋琢磨をしていたのだ。)
ところが、自由人の城士郎君、高三になるところで、AKBではないのだが、部の「恋愛禁止」的不文律に触れたのか? うーむ、細かいことは,ようわからんが、九州の高校に転向することとなった。というわけで、うちの三男と桐蔭学園で一緒に柔道したのは中高6年のうち、4年間だけ。とはいえ、中学から同じ寮で過ごした同期は6人ほど。丸山兄弟への思い入れは、私も、三男も、深いものがある。

 その後の城士郎、天理大学に進み、リオ五輪代表争いがかかる大会で、阿部一二三を下して、阿部の五輪代表は阻止したものの、自身はその直後のグランドスラム東京で膝靭帯を損傷する大怪我で代表争いから脱落。

 東京を目指して再起を果たし、五輪後の各種国際大会でも十分な実績を積み重ねつつあったところに、阿部一二三の急成長。城士郎は、昨年の東京グランドスラム決勝で阿部に敗れて世界選手権代表を逃し、世界選手権落選組が出場するアジア大会でも、韓国アンバウルに敗れて銀メダル。阿部一二三は世界選手権で同じアンバウルを下し(準決勝、そのまま)優勝。直接対決だけでなく、「アンバウル」という世界のライバルとの勝敗でも、阿部一二三と城士郎の間には「決定的な差」がついた。
 
 今回の大坂グランドスラムで、もし阿部が優勝すれば、来年の世界選手権代表も阿部に決定。ここで城士郎が負けてしまえば、東京五輪への道は、完全に途絶えてしまうところ。年齢的にも現在25歳。東京の次の五輪は絶対無理。

 父の取れなかった金メダルを取る、という目標でやってきた城士郎の五輪への道は、今日の試合で負けたら、ほぼ完全に終わってしまう。

 これだけのドラマを背負った城士郎の挑戦に、ひとかけらも触れず、阿部一二三を東京五輪のヒーロー、「顔」として盛り上げる演出だけをするテレビ東京の番組づくり。

 実際、城士郎と阿部が決勝まで残ったのだが、阿部一二三の試合は初戦から準決勝まで、全試合を何度も何度もしつこいほどに繰り返して放送したのに、城士郎の試合は、一試合も、どころか、ほんの一シーンも、一本を取って勝ち上がったシーンのひとかけらすらオンエアされることなく、決勝戦の放送となった。東京五輪の顔に阿部一二三を使って盛り上げる方針はすでに決定済、他の選手を映すわけにはいかない、とでもいうような扱いなのだ。

 そして迎えた決勝戦。城士郎は、阿部の技をすべて完封し、ゴールデンスコア、巴投げ技ありで、城士郎は勝った。
胸のつかえが、全部とれたような、本当に、正直、「どうだ、みたか」と叫んでしまった。

 もちろん、まだ、全日本チーム首脳陣の評価は阿部一二三の方が上。しかし、世界選手権代表争いは、今後の国際大会から、来年の選抜体重別まで続くこととなった。城志郎が五輪代表にたどり着くには、この後の国際大会も、阿部との直接対決も、圧倒的内容で勝ち続けなければならない。アンバウルに負けることも、もちろん許されない。代表にたどり着ける可能性はまだ低い。

 それでも、城士郎の挑戦を、今後もずっと応援していきます。