放射線治療開始前の友を見舞う

 私の住む街から西方に40km離れた安芸津町を訪れた。

 安芸津町はプロ・ゴルファーの岡本綾子さんや大相撲の安芸乃島さんが生まれ育った静かな町である。「それ行けカープ」を歌う南一生さんもそうだったような気がする。
 安芸津町に住む1級下の友人は長く神奈川県の武蔵小杉で過ごし生家のある田舎に帰郷してきた。10年前彼の妻は早朝突然のくも膜下出血を起こし以来意識不明の病院生活を送り友は天涯孤独な生活を送っている。田舎での生活のため家も建て直すなど準備をしてきたが一人生活するには広すぎる家である。
  昔から奇麗ずきで家の中は独身生活とは思えないほど奇麗にかたずいている。

 彼の唯一の楽しみはカラオケに通うことで週刊カラオケの雑誌を購読し楽譜を切り取りきれいにファイリングしている。CDやDVDも整理され一目で取り出すことが出来るように並べられていた。それにメトロノームまで買ってカラオケにのめり込む友人はそれでいいと思う。

 そんな彼はカラオケに通いながら喉に不調を訴えて一度は手術をしガンでないと診断されたらしい。今回再び声が出なくなって喉頭がんとの診断と放射線治療を要すると治療方針がでた。合計33回の放射線で治療費60万円で明日から治療開始と聞いた。

 昼飯は東広島安芸津町西端の”黒浜レストラン”に向かうがお休みでトンネルをくぐり呉市の安浦町にあるレストラン”灘”に行った。店内は多くの人で賑わい大型ガラス窓の傍に陣取った。窓からはカキ養殖用筏が浮かべられ絵を描くには最高の景色であるが丁度天気が悪く、シャッターを切る気にはなれなかった。

 彼と別れて自宅に向かう。
 道中彼とのつきあいの歴史を思い出していた。良い飲み友達であった。仕事で一緒ということはなかったが。あの頃一緒に働いた仲間達は歯が抜けるように亡くなっている。友の放射線治療の経過が良好であることを願って一路東に進路をとる。