誓文払いの思い出

60年も70年も前の昔の話。

 年末近くになると尾道の商店街は活気を帯びてくる。寒さにも負けず商店街の綱に貼られた「誓文払い」のちらしが風にたなびく風景を思いだす。
 年に一度母親に連れられて買物に付き合わされる。この時が1年間に一度の買い物のシーズンと体が覚えている。
 履物(下駄)から肌着に至るまで買い物はこの時期に済ませたのかも知れない。
 誓文払(せいもんばらい)の単語は死語になったのかとネットで調べると福岡辺りでは今でも使われているらしい。商売人が儲けたお礼に感謝祭セールの意味で旧暦10月20日に行われる。旧暦10月20日は今の暦では11月下旬に相当するので私の記憶とは一致している。

 現在では美味いものが1年中食べられる。そして毎週のごとくスーパーの特売のチラシが新聞で配布され大安売りは当たり前の話となっている。
幼少の頃から少年時代にかけ、着るセーターは体の成長に置いてけぼりを食ったように袖の長さが短くしかも鼻汁でてかてかに光ったものを着ていたような気がする。
 それは貧しさの性もあろうが商品が不足していたのだと思う、自分の家庭だけでなく皆同じだった。それが誓文払いで購入され正月まで待って着用を親から許された。食べ物も牛肉が食べられるのは正月のすき焼き位であった。
 とにかく日本は豊かになった。贅沢がまかり通る時代になってしまった。
 ものの有難さや大切さが失われて行くことになりつつある。